医師・スタッフの方へスタッフ教育

日常生活の注意点

在宅治療である腹膜透析においては、特に自己管理が重要である。「自身の目標(これからも続けたい毎日の生活、大事にしていること)をかなえるために、何に注意する必要があるのかを理解し、主体的に治療に取り組む姿勢」を患者にもってもらえるよう、医療者は患者の視点から継続的に情報提供、確認していくことが必要である。本稿ではA. 感染対策、B. 体液管理、C. 旅行・出張、D. 災害対策について、患者指導上重要な点について解説する。

A. 感染対策

1. 腹膜炎の予防

(ア) 手洗い、マスクを怠らない
手洗い、マスクをきちんとしているかを外来で定期的に尋ねる。また、PET検査入院時などにも手技チェックを行う。ベテランほど油断している場合がある (息を止めて交換すれば大丈夫、などという患者も意外といる)。
(イ) 便秘の予防
内因性腹膜炎の予防のため、腸管内圧を上げないよう便秘に注意する。また、大腸内視鏡検査を施行する際は、予防的に抗生剤内服を行う(検査当日朝にクラビット250㎎内服、等)。
(ウ) 接続デバイス使用時の注意
  1. ① 「つなぐ®」(Baxter)の洗浄
    3か月に1回程度、下記(図1)の手順に則って洗浄することが推奨される。反射板は水洗いしたあと、拭かずに自然乾燥させるよう注意する。
  2. ② 「むきんエース®」(テルモ)使用時の注意
    接合不良を防ぐために、チューブをテープで束ねない、入浴用パック等の糊がチューブに付着しないよう注意する、軟膏や保湿剤などが手に付着したままチューブを触らない、ペットの毛や髪の毛の付着に注意する、等の点に留意してもらう(図2)
(エ) トラブル時の対応の指導
不潔操作時や、チューブや透析液バッグに穴が開いていた時などの対応を、退院前にしっかりと教育しておく。
  • ・(ツイスト/ローラー)クランプをしっかり閉める
  • ・チタニウムアダプターと(ツイスト/ローラー)クランプの間を輪ゴムでしばる、あるいはクランプで止める(接続チューブ交換時のキットに入っている小クランプを患者に持たせておくと便利)。
  • ・決して注液せず、病院に電話する

図1. つなぐ®の洗浄方法

1つなぐの電源を入れる2「次へ」ボタンを5回押し、「クリーニング」を選択
3蓋を開ける4ギザギザ付きのグレーとピンクの部品を取り外す取り外した部品を水またはぬるま湯で洗う
5フタを閉めて、本体を裏返し、コインでネジを回すネジを緩めたら本体を元に返す
6フタを開けて、銀色の反射板を外し、水かぬるま湯で洗う自然乾燥させる
(布などで拭くと、メッキが剥がれる恐れがあるので拭かないこと!)
7自然乾燥させた反射板を元の位置に戻してフタを閉じる
8本たんを裏返し、中央のネジをコインを使って回して締めるネジを緩めたら本体を元に返す
9「次へ」ボタンを押し、フタを開ける
10フタを開けて、水洗いしたピンクの部品を元に戻す水洗いしたピンクの部品のへこみ部分を、黒いわくに合わせながら水平に入れる
11ピンクの部品の上に、水洗いしたグレーの部品をのせる
12フタを閉じると自動的に電源が切れる

図2. むきんエース®の接合不良を防ぐための注意点

2. 出口部感染の予防

出口部感染の予防のために重要な点を以下に述べる。

(ア) カテーテル出口部作成後、無菌的に出口部の上皮化を得ること
カテーテル出口部作成後、サイナストラクトを通って容易に体表から細菌が第二カフに付着しうるため、出口部が完全に上皮化するまでは出口部をフィルムドレッシングで無菌的に覆い、できるだけドレッシング剤を剥がす頻度も少ない方が感染予防の観点からは望ましい。カテーテル周囲の完全な上皮化が得られるまでは、出口部を防水したうえでシャワーを実施するよう患者に指導する。
(イ) 出口部への物理的な刺激を避けるようカテーテル固定を安定させること
皮下トンネルのカテーテル走行方向に沿って、出口部に無理なテンションがかからないように、カテーテルをしっかりと固定する。粘着の強固なテープは皮膚かぶれも来しやすいため、かぶれが見られる場合はテープの種類変更(メピタック®等の皮膚刺激の少ないシリコンテープなど)、皮膚被膜剤(ピュアバリア®等)の塗布、ドレッシング剤(IV3000®等)の利用、テープを極力使わないで腹帯で固定する方法などを検討する。
(ウ) 皮膚バリア機能の保持
まず日常的に保湿剤を塗布し皮膚バリア機能を保持することが重要。石鹸で洗いすぎないこと、不要な消毒は避けることにも注意すべきである。
(エ) オ-プンシャワ-の方法
オープンシャワーは基本的には泡状の石鹸で優しく出口部を洗い、シャワーで洗い流すが、出口部作成から間もないうちはカテーテルをあまり持ち上げないようにする。また、シャワー後の水分をよく拭き取ることがポイントであり、立位で自身で水分を完全に拭き取ることは難しいため、家人や介助者の協力が得られるのであれば、本人には臥位で手鏡に出口部を映して見てもらいながら、介助者がサイナスをよく観察し、ガーゼの角などを利用して水分除去を丁寧に行うことが望ましい。上記のように、出口部が完全に上皮化するまでクローズドで管理すると、オープンシャワーの指導や出口部評価の指導ができないままに退院となる場合が多い。そのため、オープンシャワーの方法を外来でも指導できるようなツールの作成が必要である (図3)。出口部が完成していれば浴槽に浸かることも可能であるが、その際は一番風呂にスパクリーン®を入れる、あるいは入浴パウチを貼る(お腹のしわを伸ばして隙間なく貼る)。

図3. オープンシャワーの説明ビデオ

(オ) 出口部の観察
出口部の観察は出口部感染予防において最も重要であるといっても言い過ぎではない。スタッフ間で出口部評価を統一しておく必要がある (図4)。また、出口部の異常がカテ-テルの刺激なのか感染症の兆候なのかを区別することは局所治療の方針決定において非常に重要であり、そのためには培養検査を怠ってはならない。
日ごろから、出口部観察の重要性、特に重要な異常所見 (発赤、排膿など)が見られた場合、次回の来院まで待たず病院に連絡するよう患者に指導しておくことも重要である。また、出口部に異常がある場合は、スマートフォンなどで写真に撮っておいてもらうと外来診察時に有用となる。

図5. 出口部評価基準

B. 体液管理

減塩については患者、家族の理解が不可欠である。塩分摂取量を減らすためのコツとしては、だしを効かせること、胡椒や大葉、ハーブ等の香りの活用、酢の活用、パンはやめてご飯にするなど種々あるが、食事は生活に密着しているため、患者・家族間での情報交換が特に有用である。当院の患者会で共有された、患者の経験に基づく知恵をいくつか挙げる。

  • ・市販の顆粒だしは塩分が多いので、自身でかつおだしをとる。みりん風味調味料や料理酒は食塩を含むので、本みりんと清酒を使用する。
  • ・旅行に行くときは旅館に事前に依頼して減塩食としてもらう。カニは非常に塩分が多いので、冬のカニ旅行は注意。
  • ・お寿司を食べるときは3貫まではシャリとネタを一緒に食べてよいが、4貫目からはネタのみを食べると、むくまない。
  • ・リンゴ酢を作っておくと無塩でおいしい調味料になる。
  • ・職場の食事会などは焼肉にしてもらうと、たれをつける量や食べる量を調節しやすい。

なぜ塩分制限が必要かを理解してもらわなければ治療的教育は不可能であるため、血圧や胸部レントゲン、BNPなどをもとに、その必要性を十分理解してもらう。特に、尿量に比例して塩分の排泄量も減少することを説明し(図6)、尿量が減少してきた際にはさらに塩分制限に留意する必要があることを理解してもらう。そのうえで主体的に塩分制限に取り組んでもらうため、例えば、「体重、血圧、浮腫との関連をノートに記録して自分で考察する機会を作る」「実際にどれくらい塩分を摂取しているのかを見える化するため、畜尿とPD排液から1日の塩分摂取量を計算する」「尿量を実際に測定し、自分の腎機能を実感する」などの具体化が有効であると思われる。

図6 残腎機能と尿中ナトリウム排泄量の関係 (大阪大学附属病院よりデ-タ提供)

C. 旅行、出張

旅行・出張に際しては、PDメニューの調整と、どこでバッグ交換するかの計画、物品を多めに準備すること、緊急時の連絡先・受診病院の確保が重要である。普段APDの患者で旅行中はCAPDにする場合、ツインバッグ操作の手技確認をしておくことも必要である。また、ばねばかりやS字フックを用意する、透析液の温め方(浴槽のお湯で温める、使い捨てカイロ(貼らないタイプがbetter)数個とともにタオルでくるむ等)、温泉に入る際の入浴パウチの貼り方(パウチの接着面の周囲をさらに防水テープで補強すると、長時間湯に浸かっても浸水しない)など、事前に外来でよく説明しておく。

D. 災害対策

地震等で避難しなければならない時のために、最低限の避難グッズとして排液バッグ、キャップを用意しておく。

(1) 連絡先を明確にしておく
患者からメーカーあるいは病院に連絡をしてもらう。大災害の場合は携帯電話のショートメールが最もつながりやすい。身体の安全、怪我の有無、避難先、数日分の物品があるか、デバイスの充電はできているかを伝えてもらう。また、緊急連絡用カード(通院している病院の連絡先、PDメニュー等の情報を記載)を作成し携帯させている病院もある。
(2) ツインバッグの予備を持っておく
透析液や物品は自宅に7日分の在庫があると安心である。また、普段APDを使用している患者も、一時的にAPDが使用できなくなることを想定し、ツインバッグを1箱予備として持っておくこと、またツインバッグ手技の復習をしておくことが望ましい。
(3) デバイスの充電
「つなぐ®」の場合、バッテリーを使用していなくても、少なくとも3ヶ月に1回の充電(充電時間は3時間~4時間)が必要 (図7)。「つなぐ®」は電源喪失時に手動で接続操作を行うこともできる(必ずコールセンターに連絡してから実施するよう説明する)。「むきんエ-ス®」の場合、停電時には内臓バッテリ-が作動するため、使用していない時には、常に充電しておく必要がある。

図7. つなぐ®使用の場合の停電時対応(Baxter)

図8. むきんエース®使用の場合の停電時対応(テルモ)

(4) APDからの緊急切り離し
一定時間以上停電が続くと、治療が継続できなくなる。その際は、クランプをすべて閉じた後、APD回路のお腹側から一番遠いところ(手の届く範囲で)をはさみで切断する。方法については各施設で患者に指導しておく。
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