腹膜透析の合併症
1. 感染症
- ① 出口部感染~トンネル感染
- 腹膜透析カテーテルの出口部が清潔に保たれていなかったり、カテーテルを引っ張ったりしてカテーテル出口部の皮膚に小さな傷が生じることによって、出口部付近の皮膚の感染がおこります。ときには、不良な皮膚のもりあがり (肉芽:にくげ)ができることもあります。感染の兆候としては出口部付近の熱感、発赤、腫張、疼痛が重要であり、膿性の滲出液を認めることで診断がつきます (図1) 。感染が出口部だけにとどまらず、カテーテルに沿って皮下トンネル部まで進展してトンネル感染にまで広がっていく場合もあります。腹膜との境にあるカテーテルの内部カフも越えて感染が腹腔内へ波及すると腹膜炎の原因にもなります (図2)。
日頃から出口部を観察し清潔に保つこと、カテーテルの固定をしっかり行うことが大切です。 - ② 腹膜透析関連腹膜炎
- 通常腹腔内は無菌ですが、バッグ交換時の消毒の不徹底や操作ミスなどで接続チューブ先端から菌が混入したり、カテーテルトンネル感染が腹腔内まで進展したり、腸管内の感染が腹腔へ波及したりすることで腹膜炎が起こります。腹膜透析関連腹膜炎は排液の混濁と(図3)、排液中の白血球数や細菌を証明することで診断します。典型的な症状は腹痛ですが、嘔吐、下痢、発熱、倦怠感など様々です。一般的には抗菌薬の腹腔内貯留による治療を行いますが、菌の種類によってはいったん腹膜透析カテーテルを抜去しなければならなかったり、腹膜透析離脱の原因にもなりますので、その予防はきわめて重要です。バッグ交換時の清潔操作の徹底、出口部感染予防のための日頃からの出口部のケアなどに注意する必要があります。
図1.出口部感染時の出口部の状態
出口部の発赤・腫脹・浸出液・排膿を認める
出口部の発赤・腫脹・浸出液・排膿を認める
図2.出口部ならびに内部カフと外部カフ
出口部から内部カフまではカテ-テルは皮下脂肪の中を走行しており、内部カフから先端までは腹腔内にあります。
出口部から内部カフまではカテ-テルは皮下脂肪の中を走行しており、内部カフから先端までは腹腔内にあります。
図3.腹膜炎時の排液混濁
2. 被嚢性腹膜硬化症 (Encapsulating Peritoneal Sclerosis: EPS)
腹膜透析を長く続けていると、腹膜が劣化し炎症を起こし、フィブリンを主体とした炎症性の被膜が腸管を覆い癒着してしまい、腸管の動きが制限され腸閉塞を起こすことがあります。腹膜に刺激が強い透析液 (ブドウ糖濃度の濃い透析液や以前に多く使用されていた酸性の透析液など)を使用したり、腹膜炎を繰り返したりすることで、腹膜が劣化してしまうことが原因になります。治療に難渋することが多く、命に係わることもありますので、発症予防が大切です。
腹膜への刺激が少ない透析液の使用を普段から心がける必要がありますので、ブドウ糖濃度の濃い透析液の使用はできるだけ避けるべきです。腹膜炎の予防も重要です。また、腹膜透析期間が長期になると腹膜劣化が進む可能性がありますので、個々の患者さんの状態に応じて血液透析への移行を検討する必要があります。
3. カテーテル関連合併症 (感染症以外)
- ① カテーテル位置異常
- 通常腹腔内でのカテーテル先端はダグラス窩 (男性の場合膀胱直腸窩、女性の場合子宮直腸窩)とよばれる肛門の前方にあたる部位に位置するよう挿入してありますが、経過中に先端の位置が移動しまうことがあり、そのために排液不良が起こることもあります。位置異常があっても排液に問題がなければ経過観察も可能ですし、下剤などで腸を動かすことでカテーテルが移動して改善することもあります。排液不良が続く場合は、カテーテル内にワイヤーを通したり、手術を行うことで元の位置にもどさなくてはならないこともあります。
- ② カテーテル閉塞
- 腹腔内でカテーテルの先端に大網 (腹膜の一部)などが巻きついたりすることでカテーテルの閉塞を起こし、注排液ができなくなることがあります。圧をかけて注液するだけで大網などがはずれて閉塞が解除されることもありますが、改善しない場合は手術で巻きつきを解除しなければならないこともあります。
4. 腹膜透析液貯留によって起こる合併症
- ① 液漏れ、ヘルニア
- 腹腔内に透析液を貯留することで腹腔内の圧が上昇し、ソケイ部 (あしの付け根)やおへそ、以前の手術の跡などの弱い部分から液が漏れで皮下組織に広がったり、腸などが逸脱して腫れてくることがあり、ヘルニアと呼ばれます。注液量を減らしても解決しない場合はヘルニアを起こしている部分を補強するような手術が必要になる場合もあります。
- ② 横隔膜交通症
- 胸腔と腹腔の間の横隔膜に、先天的または後天的に欠損部分があったり、弱い部分があると、その部分から腹腔内に注入した透析液が胸腔へ漏れてしまう事があります。腹腔内に注液した液量に比べて排液が極端に少なかったり、胸部レントゲンを撮影して胸水を認めることで気づくことがあります。保存的加療で改善しない場合は、手術で欠損部や弱い部分を縫い縮める場合もあります。
5. その他の合併症
- ① 除水不全
- 腹膜透析を長期継続することで、腹膜が劣化し十分な除水ができなくなることがあります。それ以外にも、上述したカテーテル位置異常や閉塞、横隔膜交通症などでも除水が少なくなることがあります。まだ自尿がある場合は利尿薬を増量したり、水分・塩分の制限、さらにはブドウ糖濃度の濃い透析液やイコデキストリンなど除水力が高い透析液を使用して、除水を増やす工夫をしますが、それでも体内に水分が貯留してくる場合、血圧上昇やうっ血性心不全などをきたすことがありますので、血液透析との併用療法や血液透析への移行が必要となります。
- ② 血性排液
- 血性の排液がみられることがあります。女性の生理に伴うものであれば特に心配はいりませんが、腹腔内の出血や、上述の被嚢性腹膜硬化症に伴ってみられることもあります。